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ゲド戦記

〇『ゲド戦記』
 アーシュラ・K・ル=グウィン/著
 清水真砂子/訳
 岩波書店 刊

<全6巻>
Ⅰ:影との戦い
Ⅱ:こわれた腕環
Ⅲ:さいはての島へ
Ⅳ:帰還
Ⅴ:アースシーの風
Ⅵ:ゲド戦記外伝・ドラゴンフライ

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ゲタの次はゲドです。(笑)

シリーズの第一作目がアメリカで出版されたのは1969年のこと。
60年代後半から70年代にかけては、
世界的な規模での価値転換が起こりつつありました。

フランスでは五月革命が起こり、アメリカではキング牧師の公民権運動が、
さらにベトナム戦争、フェミニズム運動
毛沢東思想のブーム・・・。

白人のエリート層が世界を動かす、という磐石な体制が
世界的にひずみを起こし始めたころ。

そんな時代にこの『ゲド戦記』は発表されました。




作者であるル=グウィンは人類学者の父と
作家の母とのあいだに生まれました。

(母親は『イシ・北米最後のインディアン』の著者としてあまりにも有名な女史。
これは一個人のアメリカ先住民の内面世界を描いた画期的な本でした)

白人的価値観がほぼ絶対だった時代に、
古くからある思想に親しみ
新しい価値観という風の音を聞きながら育ったル=グウィン。

白人としてキリスト教的価値観を尊重しながらも
東洋思想や、いわゆる先住民と称される民族の思想にも
深い敬意を持って学び接していました。

そうして生まれた『ゲド戦記』は、
魔法使いが主人公ではありますが、
夢のような魔法の世界を描いた物語ではありません。

がっつりキリスト教的思想の中を
自由に泳ぐように描かれた
C・S・ルイスの『ナルニア国物語』や
J・R・R・トールキンの『指輪物語』のような
のびのびとした作風ではなく、

キリスト教思想から離れよう、離れようと苦心しながら
新たな価値観を創造しようと試みたような作風です。

なので、児童向けの楽しい読み物、というよりは
シリーズ全編にわたって思想の書のようなカターイ趣があります。

けれども
民族の優劣や是非を超えた素晴らしい作品として
児童文学の金字塔を打ち立てました。



2006年にスタジオジブリによって映画化されましたが、
作者にはちょっと認めてもらえなかったそうで(>_<)

まぁ、アニメはアニメで、
ゲドの世界観のホンの一部をジブリ風に(または吾郎風に?)
解釈した一作品って思えばいいのではないでしょうか?




          *




では第一巻からざっとお話の中身を・・・

無数の島々と海からなる多島海世界<アースシー>を舞台に、
並外れた「力」を持つ男ゲドが
真の力を学んでゆくというお話です。

ゲドの生涯を軸に、
この世界の光と闇について描かれた壮大な物語。

それが『ゲド戦記』です。


◆Ⅰ:影との戦い

人並み外れた「力」を持つ少年ゲド。

力の正しい行使について学ぶため、親元を離れ
師匠となる魔法使いオジオンのもとで
暮らすことになります。

そこですぐに
魔法のイロハやなんかを教えてもらえるのか
と思いきや、
師匠は日々たんたんと静かな生活を送るだけ。

我慢できずに

オレなんも教えてもらってねぇんだけど~

と不満のつのるゲドですが、
師匠の答えは

わしが教えていることが、まだお前にはわからんだけ

と静かに返される。

掃除、食事の支度、動植物の世話・・
日々の生活のなかで行う全て、出会うもの全てが師匠である。
聞きたいことがあるのなら、まず沈黙しなくては・・。

そのことを、師匠の無言の背中からゲドは学び取ってゆきます。




キタでしょうコレ!!(・∀・)!!

ブルース・リーの”Don't think,feel"(考えるな、感じろ)!
的な??

『ベストキット』のミヤギ師匠!みたいな?

第一作目は、ル=グウィンが東洋思想から受けた影響が
随所に見受けられます。

バリバリの東洋思想リスペクト、キタ!


それからしばらくして、
なんだかんだでゲドは、オジオンの元を離れ
この世界の中心にあるローク魔法学院へ入学することになります。

そこでも
「オレがNo.1」と息巻いたゲドは、
禁断の魔法を使い、瀕死の重傷を負ってしまうのです。
奇跡的に生還したものの、
恐ろしい「影」に命を狙われ続けることに。

後半はこの「影」との戦いに終始しますが、
最終的に「影」の正体を理解したゲドは、

真の「力」と「智慧」について
学びの一歩を踏み出してゆくのでした。




◆Ⅱ:こわれた腕環

前作より数年が流れ、青年となったゲドが主人公。

アチュアンの墓所を守る大巫女アルハ(本当の名前はテナー)を助け出し、
彼女と協力して
壊れて二つに割れていたエレス・アクべの腕環を一つにし、
世界の平和を取り戻します。

第一作目が「力」の物語だとすれば、本作は
「男性性と女性性の融合」を表すようなお話です。

ゲドの魔法に対する意識も、生き方も
前作に比べて自信に満ち非常に洗練されています。



◆Ⅲ:さいはての島へ

魔法の世界の頂点・大賢人になったゲド。
すごくエライ人になりました。
そんな彼の壮年期が描かれた第三作目。

エンラッド国のアレン王子と旅に出て、
世界に真の王様をもたらすというお話です。

「力」が「力」を征して治められる世界ではなく、
真実の智慧を持つ王が必要とされるアースシー。

真の王へと成長してゆくアレンが主人公です。

アレンを教え諭すゲドの姿は、
かつての師匠オジオンを彷彿とさせます。

旅のクライマックスで、世界の均衡を取り戻すために
ゲドは自身の持てる「力」の全てを使い果たしてしまいます。

アレンを王にしたゲドは、
ドラゴンの背中に乗って故郷ゴントへと還っていきます。

こうして『ゲド戦記』三部作は終わりました。


『ゲド戦記』はこの三部作で終わりなんだろうなぁ~、と
誰もが思っていたその二十年後、1990年に

ル=グウィンは
誰もがあっと驚く第四作目『帰還』を発表します。




◆Ⅳ:帰還

アレン王子が<アースシー>世界の王となり、
世界に新たな秩序がもたらされました。

一方、故郷に帰ったゲドは、というと・・・

オドロキ!( ゚Д゚)!

ただのオジサンになってしまうのです!

魔法を使い果たし、精根尽き果てたゲドは、
ただの初老の男となってしまいます。

これまでのクリアーな思考も、超人的な魔法も
なにもかも失ってしまいました。

あるのは己の命、ただひとつ。

困惑と絶望の日々。

一介のヤギ飼いとなって貧しく暮らすゲドは、
己のためだけに涙する、わびしい生活を送ります。

そんな彼を救ったのが、テナーでした。

かつてアチュアンの大巫女だったテナー。
夫を亡くし、子供たちもそれぞれ巣立ち、
農場を守る市井の女主人として、静かな日々を送っておりました。

かつて、若かりし頃
実は互いに惹かれ合っていた二人。

再び出会ったいまこそ、
それぞれの人生の歴史を語り合いながら、
共に残りの人生のパートナーとなる道を選びます。

若いころの性的な欲望や幻想の延長で結ばれるのではなく、
それぞれがいろんな体験をして歳を重ねた後にはじめて
お互いを確かめ合う。

若いときに「この人だ!」
と思った直感は正しかったんだ、と
年を経て、己に対しても相手に対しても
深い信頼を持って再認識できる関係となりました。

いきなり大人の物語です~。

もう、このあたりから完全に児童文学じゃないんじゃね?
と、ドキドキしてきましたワタシ\(//∇//)\


そして二人は、
心無い大人に虐げられた少女・テルーを養子に迎え
新しい”我が家”を作り上げていきます。

ゲド、テナー、テルー。

それぞれの人生が響きあい、不思議な音色を奏ではじめる
第四作目。

これまでの三部作とはあまりにも作風が異なったため、
賛否両論の嵐が吹き荒れた作品です。

ここでシリーズから離れていった読者もいれば、
新たに読み始めた層も増えたという、
シリーズ最大の転換作でした。




◆Ⅴ:アースシーの風

初老のゲド、晩年のお話です。

え?!
ゲドほどの男が、ただの農夫で終わるわけないよね??

だって主人公だし。
このあたりで「力」がもどって、なんだかスゴイことやっちゃうんじゃないの?

・・・と、読者の誰もが思うところ。

でも、なんとゲドは普通のオジさんのままです!

しかしながら、
ただの農夫になったとはいえ、人生の基盤をテナーとともに
しっかりと再構成したゲドは、

シワの数だけ人生の真実を知る男として、深い思想と共に
人間性の磨きをかけていきます。


生き方が問われる王アレン。

竜の世界へと還ってゆくテルー。

結局「魔法」ってなんなのか、
ほんとうの「力」ってなんなのか・・
深く考えさせられる
感動のラストが待っています。



◆Ⅵ:ゲド戦記外伝・ドラゴンフライ

(単行本と岩波少年文庫とでは5巻と6巻の順番が異なります)

外伝は

ローク魔法学院がどうやってできたのかというお話や

ゲドが大賢人だったころの、とあるエピソード、など

『ゲド戦記』にまつわる5つのお話が納められた短編集です。




          *



さて、この『ゲド戦記』

これまでの人生の中で、どういうわけかチラチラッと
何度も私のそばを横切っていたのであります。

そして、
白状しますとワタクシ、これまで二度、挫折しております!(笑)



一度目の挫折は、中学の頃。

「戦記」というタイトルに惹かれて読みはじめ、
さぞ華々しいお話なんだろうなとワクワクしましたが、

なんか思ったより暗い話だな~

というわけで一巻目で脱落(>_<)



二度目の挫折は大学生の頃。

どの人物もエピソードも
心理学的パターンが当てはまり過ぎて

(例えば「影」って心理学でいうところの「シャドウ」を表してんだから
多分、自分自身とかなんだろうな、とか)

とにかく裏読みの生意気な読み方をしてしまいました。

ヤな感じですね。
もったいなかったですね!(-.-;)



して!
二度の挫折を乗り越えて、なぜかこの夏
8月の一ヶ月をかけて一気にシリーズを読破したんです!

なんの苦もなく、一気に読めました。
というか、あまりにおもしろくて止まらなかった。

暑くてなぁ~んにもしたくないと
ダラダラしていた夏の午後、
なにか読みたいな、と蔵の本棚を物色していたら、

ポロッと第一作目だけがあったんです。

思えば大人になってから、もう何年もまえのことですが、
とある翻訳のお仕事を通して、
訳者の清水真砂子さんとお会いする機会があったのです。

その時の記念にと、第一巻だけ買ってサインをいただいたのでした。



そして、実に約十年ぶりに手にした『ゲド戦記』は
思いがけなく豊かな物語として姿を現しました。

鮮やかな絵巻のように、めくるめく物語は私を魅了し、
特に第四作目を読んだときは
真夜中にぼろぼろと泣いてしまいました。


不思議ですね。

ゲドの青年期よりも壮年~初老にかけての物語に心震えたのは、
私もそれなりに歳を重ねたせいでしょうか?


一見すると想像の世界のお話だけれども、
物語の舞台である多島海世界<アースシー>は、
まるで現代世界そのもののように感じます。

小さな島々が点在し、
政治的・人種的・経済的な争いが絶えない世界<アースシー>。
交通は船が主流です。

『ゲド戦記』は、
物語自身の中でも、現実に生きる我々にとっても、
そんな昏い海をゆく人々の
航路を示す星のような、灯台のような物語だと思いました。

小さな大地にしがみつくことなく、大海原に出て
足元に広がる世界に飛び込んだ人たちの
勇気の物語だと、そう感じました。

私も恐れずに、深い海に飛び込んで
個人的なものでもいい、普遍的なものならなおさら、

何かをつかみ取って
この世界の太陽に顔を向けたい、

そんなふうに生きていけたら、と
ゲドたちとの旅を終えた今、そう思います。



          *



第三作目『さいはての島へ』を読んだとき、
ゲドのあるひと言にハッとしました。


「夢に限った話じゃないんだなあ、

長い間忘れていた遠い過去の中で
未来に起こることに すでに出会っていたり、

重大なことなのに、その意味をわかろうとしないために、つい、
たいしたこととも思わず、
平気で口にしてしまうってことは・・・」


いま自分にこの物語がもたらされたことに
心から感謝しています。

ここ数年ずっと考えていたこと、感じていたこと、悩んでいたこと、
その答えが
物語全編をとおしてバッチリ書いてあったのです。

きっと、今このタイミングだからこそ理解できたのでしょうね。




私がこんなふうにひとつの作品と出会ったように、
みなさんにもきっと、こんな出会いがあるのではないかと思います。

本屋さんに行くと、
話題の本、新作の本、古典、ベストセラー、
マンガ、雑誌、実用書・・・

と、とにかくあふれんばかりの数の本が目に入ります。

そんな中から、
人生を変える一冊、深く心に寄り添ってくれる一冊に
出会えるといいですね(*^ω^*)



          *



『ゲド戦記』はまた、
心にしみる素晴らしい言葉の宝庫でもあります。

特に私が心惹かれたのは、まずこの言葉。
ゲドの師匠オジオンの一言です。

「川にもてあそばれ、その流れにたゆとう棒切れになりたくなかったら、
人は自ら川にならねばならぬ」
『影との戦い』より




それから、これ

「自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、
しかもその選択は、かならずしも容易なものではないのだ。

坂道をのぼった先に光があることはわかっていても、
重い荷物を負った旅人は、
ついにその坂道をのぼりきれずに終わるかもしれない」
『こわれた腕環』より




「人間にとっては、
何かをすることのほうが何もしないでいることより、
ずっと容易なんだ。
わしらはいいことも悪いこともし続けるだろう」
『さいはての島へ』より




「ただ、わしらだけは幸いなことに、
自分たちがいつか必ず死ぬということを知っておる。
これは人間が天から授かったすばらしい贈り物だ」
『さいはての島へ』より



          *



物語は、ゲドとテナーのとある会話で締めくくられます。

それは本当に何気ない会話。
夫婦のよくある日常会話です。

しかも、
あまりにふっと唐突に終わってしまうので、

私は思わず次のページにもまだお話が続いているのかと
思ってしまいました。

深い余韻と期待が、じんわり胸に広がるようなラストでした。

物語はきっと、もうすでに独自の命を持って、
まだまだこれからも続いているに違いありません。

この想いの広がりが、物語を超え、日常に染み渡り、
ひょっとしたら
この世界のどこかで生きているかもしれない
ゲドやテナーに会えるのではないかとさえ、
思えてなりません。












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プロフィール

ぴろりん

Author:ぴろりん
図書館司書✿絵本アドバイザー✿保育士✿ボディセラピスト✿ピーター・ウォーカー公認ベビーマッサージ・ベビー&キッズヨガ講師✿AEAJ認定アロマアドバイザー/アロマインストラクター✿ホリスティックニールズヤードレメディーズPSアロマセラピー基礎クラス認定講師

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